病診連携システムにおける情報管理
病診連携システムにおける情報管理
(月刊新医療7月号に予定された 特集「医療情報システム最新動向」のための原稿)
名古屋第二赤十字病院 医療情報部
岸 真司
- はじめに
医療機関相互の機能連携が重要視されている現在、病診連携の機能を評価するためのシステムの構築は、医療情報システムにおける重要な課題の1つである。
本稿では、紹介状・回答書の情報管理に関する当院の取り組みを紹介するとともに、病院情報システムが持つべき機能について考察したい。
これは、コンピュータ技術の応用としては決して新しいものではないが、医療連携を成功させるためには不可欠である医療機関相互の信頼関係を築く目的では非常に重要な意味をもつものと考える。
- 名古屋第二赤十字病院の事例
- 背景
名古屋第二赤十字病院(以下、当院)は定床数835床、1日平均外来患者数約2300名、地域の中核病院と位置付けられる。病診連携システムは1990年10月から運用開始され、1997年4月現在の登録医数は494名である。昨年(1996年)1年間の院外からの紹介患者数はのべ10591名で、うち5924名(56%)が登録医からの紹介であった。全体では10591枚の紹介状に対して12779枚の紹介患者連絡票(以下回答書)が書かれた。登録医からの紹介に限ると、5924枚の紹介状に対して7561枚の回答書が書かれ、未回答率は3.96%であった。
紹介医との診療情報交換の手段は、原則的に手書きの診療情報提供書である。なお、当院では院内LANは未整備で、オーダリングシステム等の病院情報システムは稼働していない。本稿で紹介する病診連携情報管理システムはM言語(MS-DOS版SP-MUMPS)データベース上に構築した単独システムで、1993年11月から運用している【1】。
- 情報管理の目的と範囲
院外からの患者紹介数および回答書の発送状況に関する統計資料を作成することと、診療科別の未回答回答書リストを作り、医師の回答書記載の徹底に役立てることを情報管理の目的とした。同時に、院内からの発送業務も一元化した。
本システムで管理する情報は、院外からの全ての紹介状および当院からの全ての回答書とし、院外への紹介情報は管理対象外とした。コンピュータに入力して管理する範囲は診療情報提供書の基本情報(患者ID番号・患者氏名・紹介医・受診科・受診日・回答医など)とした。記載内容については管理対象外とした。
- 業務分担
- 病診連携システム事務局の業務
すべての紹介状と回答書の管理・発送を集約して扱う目的で、院内の地域医療研修センターに病診連携システム事務局(以下、事務局)を設置し、職員3名を配置した【2】。
回答書の発送はFAXあるいは郵送で行ない、FAXを優先させている。FAXは午前、午後の1日2回にまとめて発送するほか、緊急分については随時発送している。郵送のタイミングは1日1回である。
月次業務として登録医からの紹介状に対する未回答の検索を行ない、診療科ごとの未回答患者リストを作成する。このリストは各診療科部長宛てに配布される。
- 初診受付、各科受付の業務
登録医からの紹介状は、原則として初診受付窓口で預かり、患者ID番号、受診日、実際の受診診療科、一般外来・救急外来の別を紹介状の所定欄に記入したのち、複写用紙の1部を病診連携事務局に搬送する。新患ではない紹介患者の場合には、各科受付がこの業務をおこなう。
- 運用設計
紹介状と回答書の流れを図1に示す。紹介状と回答書の用紙には、あらかじめ通し番号を印字した当院独自形式のものを使用した。あらかじめ紹介状用紙を登録医に郵送し、回答書は院内各部署に配布した。所定の用紙以外の紹介状の場合は、事務局に届いた時点で紹介状番号を付与する。紹介状および回答書用紙は複写式として1部をカルテに綴じ、1部を事務局で管理する。
コンピュータにデータ登録する対象は紹介状と回答書とし、逆紹介は登録しない。運用目的上、紹介状と回答書の対応付けが重要となるため、コンピュータでは紹介状番号をキーとして対応する回答書を登録する方法とした。コンピュータへの入力作業は、紹介状については当日午後におこない、回答書は2日後に入力する。タイムラグを持たせている理由は、回答書を入力する時点で対応する紹介状が登録されている確実性を高めるためである。
医事会計システムに登録された受診患者基本情報をフロッピーディスクを介して本システムに取り込むプログラムを作成し、これを1日1回のルーチン業務とした。
紹介医の特定は、登録医については個人単位で割り当てた登録医番号で個人単位で識別されるが、非登録医については電話番号を流用した医療機関コード番号で識別し、同一医療機関内での個人識別は行なわないこととした。病院側の回答医は、ID番号によって個人単位で特定される。
1枚の紹介状が複数の診療科宛てである場合には場合は宛先診療科の数だけ、1枚の紹介状で複数の患者が紹介される場合には患者数だけ紹介状をコピーして新たにユニークな紹介状番号を付与し、システム上は複数の紹介状として扱うものとした。
紹介状に記載された宛先診療科と実際の受診診療科が同一とは限らないため、両者は別個の扱いとした。当院に実在しない診療科に対する紹介の場合には「紹介科不明」の扱いとした。
救急外来への紹介患者については、救急外来での診察が終了した時点で確定科を決定して回答責任科を割り振る運用とした。しかし、未回答の多くが「救急外来に紹介された患者で翌日の専門外来の受診を指示されたにもかかわらず実際には専門外来を受診しなかった患者」の場合であったため、救急外来で診察した医師が回答書を記載するように運用を変更した。
- 運用実績
病診連携の基本統計はシステムの基本機能として遅滞なく集計されている。統計表の項目は以下のとおり。紹介状については診療科別、一般外来・救急外来別、入院有無別の集計数。回答書については診療科別、1紹介に対する回答回数別の集計数、未回答数、未回答率。
未回答の回答書の督促を1995年から事務局の定型業務とした。登録医からの紹介患者のうち未回答患者のリストを毎月1回各診療部長宛てに通知している。1996年12月の実績では、7.6%であった未回答率が督促によって2.9%に減少した。
上述のような量的な評価ばかりでなく、機能連携の内容についての評価を行なう目的で、登録医へのアンケート調査を含めた紹介患者の追跡調査を毎年定期的に実施している【3】。1995年の調査では、紹介医へ戻るべきだが当院に引き続き通院していた患者の割合は、紹介患者全体の1.5%であった。
- 問題点と対応
- 運用上の問題
以下のような状況では回答書に対応する紹介状の特定が困難となる結果、情報をコンピュータで管理するうえでの障害となる。いずれも院内の運用を徹底することによって対処すべき事項と考えられる。
- 回答書の紹介状番号欄への記入漏れ
- 紹介状を事務局へ搬送する業務の遅滞
- 同一の紹介状に対する複数のコピーの存在
- 回答書用紙を使った逆紹介
- 紹介状を使った回答
- 紹介患者と回答患者が異なる場合(産科へ紹介された妊婦から出生した新生児について小児科から書かれた紹介患者連絡票)
以下の場合には院内で新たに紹介状を起こしているため、運用が徹底しない場合には回答書が書かれても対応する紹介状が特定できないケースが発生する。
- 1枚の紹介状で複数の患者が紹介される場合(複数の紹介状に変換)
- 1枚の紹介状が複数の診療科宛てである場合(複数の紹介状に変換)
ワープロで普通紙に印刷された回答書に対しては事務局で回答書番号を記入する必要があるが、まだ少数であり、問題にはなっていない。
- 運用設計上の問題
紹介状と回答書の関連を重視している本システムでは、回答書に対応する紹介状を特定する作業が漏れなく行なえるような運用設計が求められる。すなわち、医師が回答書を書く時点で、対応する紹介状の紹介状番号を回答書に記載できるように設計することが大切である。つまり、紹介状番号を紹介状に付与するタイミングをなるべく早くすることが重要である。
この問題は、登録医に対してはあらかじめ連番を印刷した紹介状用紙を郵送することで解決される。しかし、登録医以外からの紹介の場合にはこの方法は使えない。そこで、受付で番号付けする方法が考えられるが、当院の場合は初診患者の受付窓口は初診受付あるいは時間外受付、再診患者は各科ブロック受付、ひいては診察室で医師に直接紹介状を手渡す場合もあり、窓口を統一しにくいために実現しておらず、事務局という情報の最下流で紹介状番号を付与しているのが現状である。この方法では、カルテに貼付した紹介状の原本には紹介状番号が付かないため、回答書を書く医師が対応する紹介状の紹介状番号を知ることができず、結果として回答書情報管理の障害を招く要因の1つになっている。情報の上流で紹介状番号を付与できるように運用設計を見直す必要があるが、医師同士の私書的な性格をもった「紹介状」の扱いについて、患者心理も考慮に含めて運用設計を考えることが望まれる。
本システムの運用開始時点では、患者紹介は医事算定の対象外であったこともあり、純粋に情報の流れだけを考えてシステム設計を行なった。その後の診療報酬の改定に伴って、医事会計も意識したシステム設計・運用設計が求められるようになってきた。しかし、本システムではその目的ゆえに患者紹介の範囲を広く捉えているため、初診・再診の区別や複数科への紹介の扱いなどの点で医事算定上の扱いとは相違があり、強引な統合は歪みを生じる恐れがある。
- システム機能上の問題
本システムは基本的にシングルユーザの単独システムであるため、処理可能なデータ量にはおのずと限界がある。現在コンピュータに入力している診療情報提供書の数は、システムの運用開始時と比べて2倍近くに増大している。今後、逆紹介や病病連携も含めてコンピュータで扱うためには、マルチユーザに対応するようにシステムを再設計する必要がある。
現在のシステムでは、対応する紹介状が特定できない限り回答書を登録できない。このような回答書の入力は後回しになり、未回答紹介状を検索する段階で対応する紹介状を再検索してから改めて登録しなければならず、業務が一時期に集中する意味で問題がある。対応する紹介状が特定できない場合にはダミーの紹介状番号を与えるなどして、とりあえずの情報入力を許す機能も検討されるべきであろう。
紹介患者の追跡調査に関しては、対象患者リストの作成までしかコンピュータ化されず、外来受診歴や診断名その他の診療内容については直接カルテに当たる必要がある。この問題に関しては、今後オーダリングシステムの導入によって入退院履歴や受診履歴、検査履歴などがコンピュータ端末から閲覧できるようになればある程度解決すると思われる。
FAX送信業務に関しては、コンピュータを利用したFAXダイヤリングツールを1996年5月から利用するようにしてからは誤送信は無く、省力化にも有効であった。しかし、コンピュータで行なっているのはファクシミリ付属の受話器回線へのモデムを介した単純なダイヤリングだけであり、話し中の場合の自動リダイヤルができない点、複数宛先への連続送信機能が利用できない点、送信成否の記録機能が働かない点が問題点として残る。
- 今後の予定
システム面では、オーダリングシステムやイントラネットといった病院情報システムに統合された一部門システムへの転換を検討中である。
業務面では、扱うべき情報量の増大と、地域医療支援病院の要件を満たすための業務拡大が求められていることを踏まえて、紹介状・回答書情報の登録作業の業務分担を病院レベルで再検討すべき時期にあると考えられる。
- おわりに
診療情報の要はカルテである。カルテから診療情報提供書だけを切り離して管理するシステムには限界がある。診療内容にまで踏み込んだ病診連携の機能評価を行なうためにも、病診連携情報システムがオーダリングシステムなどの病院情報システムの一部門システムとして、統合的に機能する必要がある。
しかし、システムとして成功させるためには、技術的に洗練されたシステムを構築するだけでは片手落ちであり、システムに関わるすべての職員の意識統一が不可欠であると考える。
参考文献
- 岸真司他: 病診連携システムにおける情報管理.第16回医療情報学連合大会論文集; 508-509, 1996
- 安藤恒三郎他: 窓口,情報の一元化でより迅速・緊密な病診連携を目指す名古屋第二赤十字病院. 病院; 50(13): 1081-1084, 1991
- 伊藤豊他: 病診連携システムによる機能分化と連携強化〜紹介患者追跡調査4年間のまとめ〜. 日本病院会雑誌; 42(11): 1847-1851, 1995
図
- 紹介状と回答書の流れ